ピナツボ・オプション

ピナツボ火山の噴火で気温が下がったことから着想を得て、オゾンホール研究で知られるクルッツェン博士(1995年ノーベル化学賞受賞)は「成層圏に人工的にエアロゾル粒子を注入して反射率を高めて地球を冷やす」ことを提案し、「ピナツボ・オプション」と呼ばれるようになった。人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変が気候工学(ジオエンジニアリング)であり、太陽放射管理(SRM)と二酸化炭素除去(CDR)の二つに大別されている。成層圏エアロゾル注入(SAI)は太陽放射管理の一つである。

気候工学には次のような利点と問題点があるとされている。①地球全体の平均気温の上昇を抑えることは可能であり、熱波や豪雨などの発生頻度を抑制できる。②地球温暖化を完全に相殺することはできない。降水量の地域分布が変わったりする。③太陽放射管理は二酸化炭素の濃度を減らさないため、海洋酸性化など二酸化炭素の直接的な影響を止めることはできない。④太陽放射管理を突然停止した場合には,それまで相殺されていた温室効果が突如現れ,気温が急上昇する(終端問題)。

どのような時にどう使うのか、十分なシミュレーションと綿密な投与計画が必要である。また、全地球的な気候に影響のある方法であるため、実施に当たり国際的な同意が必要である。紛争・戦争の絶えない世界で安定してエアロゾル注入を継続できるか心許ないことである。発熱した地球に解熱剤を投与するような対症療法であり、副作用が明らかではない劇薬である。しかし、地球温暖化が連鎖的に暴走するティッピング・ポイント(臨界点)に至る前に緊急避難的に用いざるを得なくなるかもしれない。

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