PCR検査数は何故増えなかったのか? 

2020年は新型コロナウイルスが全世界に蔓延しグローバル化した世界の弱点を明らかにしました。2020年10月19日時点で、全世界で感染者数4,000万人、死亡者数110万人に達しています。わが国における感染症対策は、厚生省と国立感染症研究所(感染研)、国立国際医療研究センターが中心となり行なわれています。2020年1月28日から、新型コロナウイルスのPCR検査は、感染研が自家調整した試薬や装置を組み合わせ、全国約80か所にある傘下の地方衛生研究所で行われていました。しかし、2月3日に集団感染を起こしたダイアモンドプリンセス号が横浜に入港し、その後、全国へ感染が拡大して1日の新規感染者数が300人を越えるようになると検査体制は破綻しました。

厚生労働省は2009年新型インフルエンザ流行後に感染症対策に関する報告書をまとめています。保健所の組織強化や人員増、PCR検査の体制強化が課題として明記されました。しかし、SARS、MERSの洗礼を受けなかったわが国では、PCR検査体制などの感染症対策に本腰を入れず、真逆にも財政健全化のために感染研の人員と予算を削減し、保健所の数も減らしていました。新型コロナウイルス感染症ではその付けが回わってきました。少ないPCR検査資源での苦肉の策がクラスター対策でした。感染者の数が少なければクラスター対策は有効かもしれませんが、感染経路不明者が多くなければ、ただでさえ少ない保健所の人員を更に疲弊させることになります。地方衛生研究所以外でも大学、民間検査会社でPCR検査は実施可能でしたが、厚労省と文科省の縦割り行政の壁や感染研が独自の試薬での検査に拘ったことで検査体制は拡充されることはありませんでした。

5月には厚労省は、政府中枢に説明する内部資料「不安解消のために、希望者に広く検査を受けられるようにすべきとの主張について」を作成しています。「PCR検査の感度70%、特異度は99%で、PCR検査は誤判定がある。検査しすぎれば陰性なのに入院する人が増え、医療崩壊の危険がある」との内容でした。PCR検査は原理的に特異度100%であるにも拘わらず、特異度99%と仮定してベイズの定理を適用、偽陽性が出ることを問題視しています。現実には、中国・北京市で1000万人規模のPCR検査を問題なく実施しています。全世界的にもPCR検査の偽陽性は問題になってはいません。PCR検査データを独占したい感染研の思惑と、PCR検査を減らすことで感染者数を抑え新型コロナ感染を矮小化してオリンピックを行いたい政府側の思惑が一致してPCR検査が抑制されたかのようです。

2020年9月15日、厚労省から「新型コロナウイルス感染症に関する検査体制の拡充に向けた指針」が通達されました。保健所の数を急には増やすことは出来ないため、今後の第二波で患者数が増加すれば「かかりつけ医」に丸投げされるのではないかと危惧されます。竹槍を持って新型コロナに挑む日々はいつ終わるのでしょうか?

長野県医師会:若里だより:2021年1月1日