迷信から「迷心」の時代へ
2026年(令和8年)は、60年ぶりの丙午(ひのえうま)の年を迎えます。前回の1966年(昭和41年)には、「丙午生まれの女性は気が強く夫の命を縮める」という迷信が広がり、当時の出生数は前年比で約25%(約46万人)も減少するという社会現象を引き起こしました。深刻な少子化が進み、令和7年には出生数が65万人まで減少すると予測されていますが、令和8年には、迷信によるさらなる出生数の落ち込みが危惧されます。この丙午の迷信は、江戸時代に起こった「八百屋のお七放火事件」がきっかけとなったようです。お七が1666年(寛文6年)の丙午生まれとされたことと、「丙午の年は火事が多い」という迷信とが結びつき、激しい気性の女性が不幸をもたらすという俗説が生まれたとされています。
構造的少子化が続き、日本全体としては「毎年が丙午」であるかのような様相を呈しています。AIの時代に、若い夫婦が丙午の迷信を信じる可能性は低いと思われますが、ChatGPTに「令和8年の出生数が丙午の迷信に影響されるのか」と尋ねてみました。以下のような答えが返ってきました。
「令和8年の出生数が丙午の影響で大きく減ることはないでしょう。ただし、構造的少子化の延長線上で過去最低を更新する可能性は高いと考えられます。もはや“丙午”という特定の迷信ではなく、“令和という時代そのもの”が、子を持つ勇気を試されているとも言えるでしょう」
ソロバンの音が響いていた昭和の時代は、たとえ貧しくとも、人々は概ね平等で、将来への夢や希望という余白がありました。一方、スマートフォンでAIを友とする令和の時代は、便利になった反面、格差が拡がり、将来への不安が漂っています。この「不安が漂う心」こそが、現代人の「迷心」ではないでしょうか。丙午の迷信は「運命を恐れる人々の心」から生まれましたが、令和の混迷は「未来を信じきれない人々の心」から生まれているように思えます。
現代は「VUCA時代」と呼ばれています。これは、不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)な環境が常態化し、従来の安定した未来像や正解が通用しない世界を示しています。このような時代において、私たちはどのように行動すべきでしょうか。全てをAIの「ご神託」通りに進めるわけにはいきません。AIが示すのは統計学的に得られた情報のパターンであり、世界の本当の意味を見いだすのは人間です。だからこそ、釈迦のいう自灯明(じとうみょう)、つまり自らを照らす灯を育てることが不可欠です。しかし、もしAIが、迷信や偏見を排した正しい判断を人間に示し、未来への不安という「迷心」を晴らす客観的な道筋をもたらす存在となるならば、現代における法灯明(ほうとうみょう)と成り得るのかもしれません。


