今年の金メダルは誰の手に?

新型コロナウイルスによる延期や人権侵害発言による関係者の辞任・解任など開会直前までトラブルが続いた東京五輪でしたが、わが国は史上最多58個のメダルを獲得し、アスリートの目覚ましい活躍で盛り上がり、コロナ禍を忘れさせる真夏の清涼剤となりました。一方、わが国の新型コロナウイルスは五輪期間中に感染爆発を来し、新規感染者は4,204人から14,459人へ3倍以上に増加しました。感染力の強いデルタ変異株の流行と五輪開催による気の緩みのために感染者が増加したと分析されています。五輪期間中の検査陽性率は東京都では20%台でしたが、選手村では0.03%であり、皮肉にも五輪の「バブル」内は感染が抑制されていました。アスリートにとってはコロナから守られた安心・安全な「パラレルワールド」の競技大会となったようです。

さて「人類がコロナに打ち勝った証として開催される五輪」ならば、カタリン・カリコにこそ金メダルが相応しいものではないでしょうか?1985年、彼女はハンガリーから「鉄のカーテン」を越えて米国に渡り、以後20年以上も地道にmRNA一筋の研究を続けていました。mRNAはそのままでは抗原性が強く強い炎症を惹起するために生体に投与することは不可能でした。2005年、彼女は塩基ウラシル(U)をシュードウリジン(Ψ)と置き換えることで炎症が抑えられることを発表しました1)。彼女の研究が基礎となり新型コロナmRNAワクチンが完成し、2020年12月からワクチン接種が開始されました。mRNAワクチンの有効率は95%と報告され、新型コロナウイルスから人類を守る画期的なワクチンとなりました。彼女が全財産900ポンドを娘さんのテディベアの中に隠しハンガリーを出国した話は有名ですが、娘さんは米国女子ボート「エイト」の代表となり、北京・ロンドン五輪の金メダリストになっています。カタリン・カリコにノーベル賞の金メダルが授与されれば、波瀾万丈のシンデレラストーリーが完成されます。

“お金や栄誉などの見返りを求めないこと。ベストを尽くし、それに満足することです。うわべだけのこの社会において、重要なのはあなたの見栄えではなく、あなたが創り出す価値なのです。一時の栄光は大切ではありません” カタリン・カリコ

  1. Katalin Karikó, Michael Buckstein, Houping Ni, Drew Weissman. Suppression of RNA recognition by Toll-like receptors: the impact of nucleoside modification and the evolutionary origin of RNA. Immunity. 2005 Aug;23(2):165-75 DOI:https://doi.org/10.1016/j.immuni.2005.06.008