セカンドステージは「かかりつけ医」  2018 May 01 (Tue)  

はじめに
 私自身は、勤務医であるときは無論、開業した当時も医業継承につき考えてもみませんでした。しかし、自分が還暦を迎えた今、医業継承につき考えるべき時になったと感じています。欧米の医師のように60歳台で、ハッピーリタイヤメントし、悠々自適の人生を送れれば理想的ですが、仕事が生き甲斐となる我々日本人にはなかなか真似の出来ないことです。また、後継者がいなければ毎日来て頂く患者のためにも廃業するわけにいかないため、然るべき後継者を見つける必要があります。子弟を医大に入学させて後継者とすることが出来れば良いかもしれませんが、医大合格のハードルは年々高くなり、偏差値62.5以上、成績上位10%を目指す挑戦となり、まるで5000メートル級の山に登るように思われます。また例え子弟が医大を卒業したとしても地元に戻ってくれるかどうかも不確定要素です。
 最近、医業継承の件数が増えてきたことを反映したのか、医業継承コンサルタントからのダイレクトメールが送られて来るようになりました。開業医と後継者のお見合いシステムになると思われますが、良き後継者が見つかるのだろうか?継承者に地域医療を支える心構えがあるかのかどうか?上手く条件が折り合うのだろうか?さりとて医局の後輩のようによく知った医師に譲り渡したいと思っても、お互いの希望する時期が合致するかどうか?良き伴侶を見つけるが如く困難な事象かと思われます。今回は医業継承につき、地域医療を担う開業医の高齢化と専門医志向の若い勤務医の2つの側面から考えてみたいと思います。

地域医療を担う開業医の高齢化
 わが国では2007年、65歳以上の人口が21%を越え、超高齢社会へと突入しています。高齢化と供に後継者問題に悩む中小企業が増えてきています。医業継承においても同様に、後継者確保が困難な時代を迎えているようです。厚生労働省の調査によると診療所に従事する医師の総数は、2016年12月31日時点で、約10.2万人、平均年齢は59.6歳であり、その中で60歳以上は約4.8万人(47%)でした。2006年時点では診療所医師総数は約9.5万人、60歳以上は約3.6万人(38%)でした。この10年において、医師総数の約7000人増加に対して、60歳以上の医師数は約1.2万人増加しており、診療所医師の高齢化が進んでいます。また、この10年で、総医師数は、26.4万人から30.4万人へ増加していますが、勤務医3.3万人に対して開業医数は約7000人しか増えていません。70歳以上の診療所医師の割合は全国19.2%でしたが、京都24.1%(第1位)、長野23.7%(第2位)であり、4人に1人が70歳以上となっている地域もあります。後継者不在のために閉院する診療所も少なくなく、また、診療所を取り巻く医療経済環境は年々厳しくなり、毎年約4000件の診療所が開設されるのに対し、ほぼ同数が閉院しているとのことです。

専門医志向の若い勤務医
 医学部を卒業しても医師として一人前になるためには時間が掛かります。新医師臨床研修制度が始まり、医学部卒業生が研修先をマッチングで自由に選べるようになりました。若手医師は専門医を習得するために、指導医がいて十分な症例数のある研修病院での研鑽を積むことを希望するため、大学病院ではなく都会の研修病院で研修する医師が増えてきているようです。また訴訟社会化を背景に大病院で勤務すれば組織に守られている安心感があると思われます。医学部定員増加で医師数が増えても、若手医師、勤務医は大病院・都会志向であり、地域医療を担う医師の不足は解消されていません。また、医師は子弟の十分な教育環境を望む事が多く、都市部に住んでいなければ実現は困難であり、地方を敬遠することになると思われます。また、僻地、離島などでの地域医療を目指す意志があったとしても、初期研修を終え、総合診療専門医資格をとるまでに5年以上かかるため直ぐに地方での医師不足が解消する見込みは少ないものと思われます。

地域医療の担い手
 わが国では高度成長期の1973年、第二次田中角栄内閣にて一県一医大構想が閣議決定されました。その後、1980年代にかけて、多くの医療機関が設立されました。それから30年以上経過し、多くの医療機関において、経営者の高齢化と建物の老朽化が同時に進行しています。後継者の世代交代、施設の建て替えが必要な時期を迎えています。
病院に勤務して専門医としての十分な臨床経験を積み、開業医となり「かかりつけ医」として地域医療に貢献することが理想的と思われます。私自身、勤務医時代は、病院中心の専門医療ばかりに目が向いていたと思います。退院後の自宅や施設での療養環境、介護にはあまり関心がなかったように思います。開業してからは、地域医療の最前線に位置し、家庭・施設での医療・介護環境を考えないといけない立場になっています。訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーの方々との多職種連携が必要になっています。医師としてのセカンドステージが「かかりつけ医」だと思っています。

まとめ
 開業医の後継者問題は深刻になりつつあるようです。2017年の医療情報サイトm3のアンケートでは開業医の54%が引退後の後継者が決まっていない、28%が廃業するとの結果でした。僻地などの地方では高齢医師が高齢患者を診て地域医療を支えている「老老医療」が顕在化しています。高齢者が増えるなか、開業医が高齢化し引退していくとすれば、今後誰が地域医療を支えていくのでしょうか。身内に後継者がいない場合には、地域医療継続のために第三者継承が必要になるかもしれません。医師会や病院の主催する病診連携の会は、開業医と勤務医と繋がる貴重な場の一つとなると思われます。地域医療存続のため、継承をスムーズに進めるために地域医師会が果たす役割は大きいものと思われます。
(長野医報:2018年5月)